CONCENT Design Engineering Group

ユカイ工学と一緒に考える「プロトタイピング」と「デジタルとフィジカルのかけあわせ」|『ユカイの未開』座談会レポート

  • #プロトタイピング
  • #生成AI
  • #UXデザイン

先日、ロボット開発を手がけるユカイ工学とコンセントのDesign Engineering group(以降DEG)のメンバーで「ユカイの未開」という企画で座談会をしてきました。そこで話された内容を当日参加した東海林の視点でまとめます。

ユカイの未開とは

「ユカイの未開」とは、ユカイメンバーにとって「未開の地」=まだ未解決・未解明な領域について、様々な分野の方をお招きし、お話を伺っていくトークシリーズ。とされています。今回は、デザインやプロトタイピングなど同じキーワードもあれば、その内容やプロセスで違うところもある両社で情報交換をしながら、今後一緒にどんなことができそうか妄想を膨らませる会でした。
ロボットづくりを得意とするユカイ工学のメンバーと、デジタル領域を得意とするコンセントのDEGのメンバーが集まり、プロトタイピングや、デジタルとフィジカルの間にあるものについて議論・妄想が広がりました。

▼座談会の様子はこちらで公開されています。ぜひあわせてご覧ください。

ユカイ工学とは

デザインとエンジニアリングが武器の会社で、プロダクト事業としてロボットの自社開発から販売まで行う他、ソリューション事業として新規事業開発や試作などの受託開発や、ロボコンのキットを活用した教育事業も展開している。週に1回の妄想会や、年に1回のメイカソンを通して個人の妄想を起点にした企画を大切にしている企業です。

登場人物(敬称略)

座談会登場人物4名の顔写真

巽孝介 ユカイ工学株式会社|CDO デザイン統括(画像左上)
豊橋技術科学大学ICD-LAB、デザインオフィスnendoを経て、2014年よりユカイ工学に参画。BOCCOシリーズ、MiYシリーズなどのデザインを手掛ける。自社製品や受託開発におけるプロダクトやロボットのデザイン、ディレク ションを行っている。

前田卓哉 ユカイ工学株式会社|デザイナー(画像左下)
3Dプリントサービスの会社を経て2018年にユカイ工学に入社。BOCCO emoの開発ディレクションを行いつつ、他社のロボットデザインなども担当。

山口陽一郎 株式会社コンセント|UX/UIデザイナー(画像右上)
ウェブサイト構築におけるアートディレクション/デザインを主な活動領域とし、2011年の入社以降多くのプロジェクトに従事。その他、各種アプリケーションUIの設計やデザイン、モーショングラフィックスを中心とした映像制作なども手掛ける。

東海林慶祐 株式会社コンセント|サービスデザイナー(画像右下)
九州大学大学院芸術工学府修士課程を修了。創造性研究の傍ら、ソーシャルデザイン領域での共創ワークショップに多数参画。現在は、事業開発・組織開発におけるリサーチやコンセプト・戦略策定、および体験設計・コンテンツ開発などを手がける。デザインとエンジニアリングのバックグラウンドから、プロトタイピングを通してデザインを探索。

デジタルとフィジカルの間に存在する「なにか」

東海林:さっき近くにあった家電から突然音が鳴ったのを聞いて連想したんですけど、最近、「喋る家電(性格のある家電)」というものをプロトタイピングしていて、まだ探索の段階なんですけど、家電同士が喋ってる世界ってどうなるのかを考えてるんですよ。

巽:僕らも喋るロボットをよくつくるんですが、すごい喋るとうざくなってしまう、そのバランスをどう取るかは悩むんですよね。

山口:今の話で思ったのが、メッセージで命令を送って、そのレスポンスがあってというラリーでAIとチャットするやりとりはすごく疲れる感じがして。家電が喋るとしても、そういったラリー形式でないコミュニケーションが音声でできたらいいんだろうなと思います。

巽:応答責任が生じるみたいな。以前実施したプロジェクトの中でも、1対1でのコミュニケーションだと応答責任が生まれてしまうから、ロボットが2、3体いてそこで雑談しててそこにたまに入っても入らなくてもいいくらいの方が良いというのがありましたね。

山口:デジタルとフィジカルというときに、デジタルのUIってボタンや入力フォームにある文字情報を選ぶとか、手続きがすごく限られた上でラリーしていくという制約があるけど、一方でフィジカルのプロダクトを触る時にはものすごくいろんな情報を処理していると思うんです。

山口:紙の本を読む時も、実際の文字情報以外に周囲の光で表面の色は毎秒変わっていくし、手の向きを変えたら本の形も手の中で変わっていくわけで、すごくインタラクティブだなと思うんですよね。

巽:たしかに、この「Qoobo」もセンシングはただの加速度センサーなんですよね。でも撫で方ですごく反応が変わるように人間は感じるし、感情もシンプルなパラメーターで表現しているのに、こういう「体」を持っていることで情報量や感じ方が変わるのはフィジカルの特性が発揮されるみたいなことですね。

しっぽクッションQooboを撫でている様子
Qoobo(https://store.ux-xu.com/products/qoobo)

▼ 喋る家電のプロトタイピングの様子

勝手につくる、妄想を実現するプロトタイピング

両社でプロジェクトの進め方や会社の文化を共有する中で、共通のキーワードとなった「プロトタイピング」。プロトタイピングの意味や進め方について共有し合いました。

妄想を起点にするユカイ工学、アイデアをどう評価するか?

巽:ユカイ工学は、妄想起点や個人の好奇心を燃料にプロダクトをつくっている。バイヤーに見せたり、展示会に出すというのはするんですが、客観性の担保を体系化できてないなと。

東海林:妄想を起点にしたアイデアをどんなふうに評価しているのかが気になります。フィジカルなものは触り心地や、細かいインタラクションによって体験が大きく変わるけど、アイデアとしてテキストとか紙面で表現されている時にはあまり価値が伝わらないじゃないですか。アイデアを早い段階で評価しすぎないというのは結構大事なんじゃないかなと最近思っているんですよね。

山口:アイデアのおいしいところを言語で処理しちゃうと、情報力が削られていくというか抽象化されて落としてしまう。そのおいしいところをちゃんと保存していく方法みたいなことだよね。

巽:ユカイ工学はエンジニアが多い会社なんですけど、むしろ言語化が苦手で、モノをつくって価値検証したいというか、要は「つくってみた」という部分での突破力のあるメンバーが多い。そういう下地もあって、妄想をプロトタイプするというか、動くもの・触れるものをつくってそれを評価するカルチャーが生まれてきてるのかなと思います。

巽:さっきのQooboも最初に出てきた時に、触れるものとして出てきたから形になっていったのかなと。

東海林:アイデアを出してそれを検証するというプロトタイピングの捉え方もあると思うんですが、まさに今の話みたいな、アイデア出しとプロトタイピングを両輪でやる。アイデアを出しながらプロトタイプを制作して、そこで思いついた何かからアイデアが生まれてみたいな、少しカオスなプロセスにはなるんですけど、それが有効なシーンがあるなと最近すごく思っています。

山口:つくったものをみて、自分がアップデートされる、それで次のものができる状態に初めてなるみたいな。

Qooboのアイデアスケッチ
妄想から形になったQooboのアイデアスケッチ(https://note.com/ux_xu/n/nae7bb71263c6)

つくりながら考える、そのためのAI

巽:逆に、デジタルプロダクトやサービスのプロトタイプってどんなアプローチでつくるんですか?

山口:局所的なUIの使いやすさの改善であればFigmaのプロトタイプ機能で画面のモックをつくってビジュアルの印象やサイズ感を含めて検証しますね。最近は、生成AIを使ってプロンプトベースでプロトタイプをつくることで、より入出力の複雑なUIの検証をやることも多いですね。

山口:他にも、もっと漠然とした課題の時もあって、ユーザーが達成したいことはあるけど、アプリかもしれないし、店舗かもしれないし、みたいな方法は決まってない場合は、紙面で表現したり、物理的に工作したり、どの段階のプロトタイプをつくるのかによって、さまざまですね。

巽:そういうダーティープロトタイプを重ねるというのは、手を動かすのが楽しいし、得られるものの質も違うというのはありますよね。

東海林:まさに、アイデア出しとプロトタイピングを同時にやるというアプローチは、特にデジタル領域だとAIが出てきてくれたことによってやりやすくなったなと思うし、「楽しい」というのはすごく共感します。勝手につくってみせてというのは僕たちもよくやってますね。

山口:頼まれもしないのに(笑)

山口:例えば、冒頭話していたボタンを押してレスポンスがきてというラリー以外のUIとのコミュニケーションを考える中で、「ウェブデザインろくろ」というのを最近つくっていて。

山口:ウェブサイトってスクロールして読むという時間軸のある映像のような体験だと思っているんですが、デザインするときはツール上で縦に長い掛け軸のような画面に向き合っている。デザインする時とみる時の体験が違うという違和感があって、それを埋めることができないかと思ってつくってみています。

前田:勝手につくって、既に出来上がったものを見せ合うというのは共通するなと思いました。それがAIが出てきたのでよりつくりやすくなった、よりスピードアップしたかなという気がします。

前田:AI活用という点でいうと、ロボットの会話エンジンとしてAIを使う時とプロトタイプをつくるためにAIを使うのはちょっと違う感じがしますね。エモちゃん(BOCCO emo)はだいたい家にいるので、このタイミングでこういう会話をしたらどうなるんだろうみたいなことを想像しながらチューニングをしてるんですが、つくるときはAIに「これやって」みたいなちょっと雑な感じになりがちじゃないですか。そこも別でおもしろいなと思います。

ウェブデザインろくろの画面イメージ。自動でスクロールする画面に対し感覚的に線を描画していくことで、ウェブサイトのレイアウトのラフスケッチを起こすツール
ウェブデザインろくろ:自動でスクロールする画面に対し感覚的に線を描画していくことで、ウェブサイトのレイアウトのラフスケッチを起こすツール(山口作成)

▼次の話題へのスムーズなつなぎをAIが提案してくれる「話題DJ」(東海林作成)

ユカイ工学とコンセントで、一緒につくるなら?

デジタルとフィジカルの間にある「なにか」やそのかけあわせ。これまでの話を踏まえつつ、今後にむけて両社で一緒につくるならどんなテーマがおもしろいか、この座談会の中でも色々と妄想を膨らませてみました。

フィジカルならでは、デジタルならではの素材と表現を探究する

巽:エディトリアルや本は、デジタルとフィジカルの境界がはっきりしている領域だなと思うので、エディトリアルや活字を読む媒体で考えてみるとかもありそうですよね。

山口:個人的に気になっているテーマなんですけど、「デジタルの特性・らしさを踏まえた画面のデザイン」をもっと探れるのではないかと思っているんですよね。というのも、さっきの本の話のように、媒体や素材の性格・特性と、表現がしっかり噛み合っているときに、いい表現になると思っていて。

山口:物理的な本のデザインをする人は、紙の種類とか重さまで含めて視覚的な表現をデザインしていますよね。まだ、デジタルという画面上の特性・らしさが掴みきれてなくて。

山口:例えば、画面上に出てくるものの何がおもしろいかを考えると、重さがない、突然現れたり消えたりするって物理世界ではなかなか起こし得ないと思うんです。そういう幽霊みたいな特性とか幻性を踏まえた上で、これこそが画面の中のデザインというものをもっと探れるのではないかと思っています。

巽:画面の中で突き詰めていくというアプローチも聞いていて面白いなと思ったし、逆に生活の中に取り込んでいくのもおもしろいのではないかと思いましたね。たしかに普段の生活で急に何かが現れたり消えたりすることはないけど、それができる装置やプロダクトがあると、境界の曖昧性や生活の中の驚きが生み出せるのでないかなと。

前田:「BOCCO emo」みたいなロボットはだいたいアプリがあって、アプリにいる時と本体と、ずっとロボットと常に一緒にいるわけではないので、外にいるときはアプリの中でコミュニケーションする、本体と喋るときはアプリからいなくなって直接会話できる。そういう消えたり喋ったり、両方できるという体験もロボットとしてはありますね。

山口:おもしろいですね。そういう存在の仕方もあっていいですよね。

東海林:突然消えるウェブサイトがあってもいいですよね。物理空間の何らかのインタラクションと反応して消えるとか。

巽:物理と連動するというのもおもしろいですよね。

BOCCO emoが食卓に置かれている様子
BOCCO emo(https://store.ux-xu.com/products/bocco-emo)

「ノイズ」を探索する

東海林:別のテーマとして、「ノイズ」について探索するみたいなこともおもしろいんじゃないかなと思いました。さっきの、家電の音が急に鳴ったというトラブルがありましたけど、そこから話が広がって、いいノイズだったなと思っていて。本の紙の摩擦感みたいなことともつながるなと思いますね。

巽:それロボットつくる時の悩みとほぼ近い話で、ただのバグではあるんですけどそれが愛らしさにつながるような。うまくできないことが愛らしさにつながったり価値になったり、「うまいことできないことをうまいことできる」というか、そういうアプローチもいいですね。

前田:予期していない何かをいいと思える、そうでないと感じられるかの違いってなんだろう?と考えると、このロボットも突然喋るがそれに対して良いと思う人も悪いと感じる人もいて、それはタイミングによって変わる、空気に適した振る舞いができるかがかわいさに影響しているんじゃないかと思いますね。人は知覚があるのでできるんですが、空気を読めるかは難しい課題だなと思いますね。

山口:設計者が設計しきれていない・考え及んでいないところが、ロボットに残っていることで、新しいコミュニケーションのプロセスになっていくこともありそうですね。

前田:ありますね。あえて余白を残しておいて、問い合わせやアンケートからこんな使い方をしたんだという発見をするというのはすごくよくあります。

「おもしろ気持ち悪い」を考える

東海林:さっきの探索的なプロトタイピングというところでいうと、以前、人間と時計の関係って捉え直すことができるんじゃないか?ということをプロトタイピングしていたことがありますね。

東海林:例えば心拍のセンサーとソレノイドをつないで、心拍として同期して動くものをつくった時に、シンプルなんですけど自分の心臓が外部化される感覚があって、そういう抽象的な概念を手触りを持って議論できるというのおもしろさはありました。

巽:心臓ネタでいうと、ユカイ工学も以前「持てる心臓」みたいなものを作ったことがあって。結構ドクンと本当の心臓を持っているみたいな気持ち悪い感じがあって。例えばある瞬間のアイドル自身の心拍を感じられるとなれば、推し活にもなるし、なにか気持ち悪いおもしろさがあるなと思います。

巽:気持ち悪いおもしろさというところでいうと、今までのプロダクトにもそういう要素は多いなと思っていて、さっきのしっぽだけついているクッション「Qoobo」もそうだし、「甘噛みハムハム」も口に手を入れるという、気持ち悪いんだけど痛気持ちいい、みたいな。

巽:そういう「おもしろ気持ち悪い」とかを、一緒に考えてみるのもいいですね

ユカイ工学のプロダクト一覧
ユカイ工学のプロダクト一覧(https://store.ux-xu.com/)

▼人間と時計の関係を問い直すプロトタイピング

座談会を終えて

座談会を通して、妄想を形にするために必要な「手触り」について考えさせられました。例えば、座談会の途中で家電の音が突然鳴るというハプニングがありましたが、それをおもしろがることができたり、個人の妄想を各々が触れる形にして示すことで、みんなで少しずつ違った角度・領域から重ね合って議論できたり。そこには「手触り」があり、「プロトタイプ」はその「手触り」を生み、その質を議論するためにあるのではと思えました。いくつか今後の可能性が見えてきましたが、それぞれのテーマで両社の得意を重ね合えそうな気配を感じ、一緒にデジタルとフィジカルの間にある「なにか」を具体的な形にしていくのが楽しみです(東海林|コンセント)。

話題の脱線や広がりが心地よくて、「これずっと話してたいな…」と思っていました。私は普段は「画面」のデザインを担当することがほとんどなので、物理的なプロダクトを手掛けてきたユカイ工学さんの視点はとても刺激的でした。一方で、ユーザーと、ユーザーが触れる対象との接点の取り扱いかたにおいては、共感する部分も多々ありました。これからまた、好奇心を起点にして何かを生み出していけそうです。楽しみです(山口|コンセント)。

画面の中の世界特有のあるべき質感や特性の話は、興味深かったです。スキューモーフィズムやフラットデザインなど、人々のデジタルデバイスとの親和性が高まるにつれて色々と試されてきた領域とは思いますが、まだ考える予知があるし、そんな観点を基点にまだ見たことのない試作を一緒に作っていくのも楽しそうだと感じました(巽|ユカイ工学)。

「頼まれてもいないのに、勝手に作ってしまう」。そんな、理屈よりも先に手が動いてしまうものづくりへの純粋な好奇心が、両社の共通言語であることを再確認した対談でした。完璧な設計を目指すのではなく、あえて「ノイズ」や「余白」を愛でる視点。その共通項をベースに、普段の私たちが踏み込めないような未知の領域で、実験的なものづくりをご一緒できるのを楽しみにしています(前田|ユカイ工学)。

Profile

  • 画像:東海林 慶祐
    東海林 慶祐

    九州大学大学院芸術工学府修士課程を修了。創造性研究の傍ら、ソーシャルデザイン領域での共創ワークショップに多数参画。現在は、事業開発・組織開発におけるリサーチやコンセプト・戦略策定、および体験設計・コンテンツ開発などを手がける。デザインとエンジニアリングのバックグラウンドから、プロトタイピングを通してデザインを探索。

  • 画像:山口 陽一郎
    山口 陽一郎

    ウェブサイト構築におけるアートディレクション/デザインを主な活動領域とし、2011年の入社以降多くのプロジェクトに従事。その他、各種アプリケーションUIの設計やデザイン、モーショングラフィックスを中心とした映像制作なども手掛ける。